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2012年10月27日

PS3/Xbox360『鉄拳タッグトーナメント2』レビュー

PS3 Xbox360

 2009 年の『鉄拳6』以来だが、個人的には『6』を遊んだのが去年なので、あんまり久々という感じもしない。なぜか平八が若返っていた。

『6』のように、ひとりで遊べるシナリオキャンペーンモードはないので、今回は純粋な格闘ゲームになっている。タイトルにもなっているタッグマッチはもちろん、普通の1対1、または1対2といった変則マッチも可能。

 ただ、それ以外は大して進化しておらず、総勢50人以上というキャラ数の多さで押した印象。『鉄拳2』の頃にいたエンジェルが久々に登場したり、死んだはずの仁八まで出てきて、世界観や設定は二の次で、これまでの『鉄拳』シリーズ総決算のお祭りといった感じ。

 一応、キャラをいろいろとコーディネイトできるカスタマイズ要素もあるのだが、肝心のパーツ集めがメンドイことと、頭に天使の輪っか浮かべたりナイフ持たせたりというようなものなので、大してカスタマイズしようという気にならず、オマケの域は出ていない。チャイナドレスや制服など、コスチュームチェンジに匹敵するようなカスタマイズパーツもあるが、パーツのクオリティ自体がそこまで高くないので、結局デフォルトコスチュームに落ち着いたりする。

nina
装備のカラーチェンジはかなり細かく設定できるので、今後のスタンダードにしてほしい。なお、この写真は決して肌色を目指したけど上手くいかなかったわけではない


 チュートリアルモードともいえる「FIGHT LAB」は親切な作りではあるが、ここで教えてくれるものは基本中の基本でしかないため、これが完璧にできたところで、猛者しかいないオンライン対戦においては何の役にも立たない。あと一歩、踏み込んだチュートリアルが欲しかったところだ。所詮、ヤムチャではどうあがいても超サイヤ人たちに敵わない。


■オンラインは覚悟せよ

 発売日から1か月といったところだが、すでに 500 勝クラスの人しか残っていなくて、無理ゲー臭が漂う。1回浮かされたら体力ゲージが半分なくなるまで延々とコンボを決められるのは変わっていないようで、初心者が勝つのは不可能に近い。

 浮いたら最後ユーキャントストップ、基本的にやりたい放題で、地面に叩きつけた後にバウンドが発生するため、開幕浮かせ→空中コンボ→叩きつけ→バウンドからの空中コンボ→起き上がりを執拗に攻撃して、起き上がれないまま決着……という、何の冗談だっていう展開もある。本気の熟練者と初心者が激突すると、本当にこうなる。今回はタッグマッチなので、ふたりがかりでボッコボコにする技もあり、そりゃあもうひどい。

 熟練者と初心者がマッチングされるのを防ぐために、なるべくランクが近い人とあたるような作りになってはいるが、そもそも熟練者しか残っていないことと、本来プレイヤーの腕前につけられるはずのランクがキャラごとになっているため、「ランクを見る限りでは初心者だけど、実は凄腕の人が、めったに使わないキャラを使っているだけ」という、なんちゃって初心者がゴロゴロしている。なぜこんなシステムにしたのかは理解に苦しむところだ。


■『鉄拳』の長所と短所

「1試合たった3分で勝敗が決まる!」とはパッケージ裏に踊る宣伝文句だが、実際は1分かからない。『6』のレビューや上でも書いたが、1回のコンボで体力ゲージを半分持っていかれるので、相手がミスらない限り、読み合いに2回負けると、ほぼ終わる。

 このあまりにも極端なバランスは『鉄拳』の特徴であり、他の格闘ゲームと一線を画す個性ではあるのだが、これは短期決戦という長所でもあり、また、短所でもある。
 通常、戦いの中で少しずつ成長していくはずの初心者が成長する暇もなく倒されるため、必然的に、シリーズ経験者と初心者の間には大きな壁ができる。その内、「もういいや」とやめてしまう層と、根気良く練習する層に分かれ始め、結果、まるで千尋の谷に突き落として這い上がってきた者だけを育てるかのような作りになっている。仕事ならまだしも、ゲームという娯楽でこれはどうなんだという気はする。

 また、ウリであるはずの 50 キャラというのも、初心者にとっては新たな障壁となりうる。格闘ゲームが強い人は、自分が使用しないキャラの動きも把握している。覚えなければ対処ができないからだ。しかしその数が 50 ともなると、あらゆるキャラに対処できるようになるまで時間がかかる。結果、シリーズを追ってきたベテランプレイヤーと初心者の差は開く一方となる。


■個人的なひとりごと

 負けるのは別にいい。元々、格闘ゲームは強くない。でも、なんでこんなムカツクんだろうと考えていたところ、スピーディーな連続技で一気呵成に倒されるのではなく、ピシッ……バシッ……ピシッ……と随分と間の空いた攻撃の連続を、なす術もなく喰らい続けてしまうところにあるのだと思う。酔拳の使い手に翻弄されてる感じだろうか。

 そうなる原因としては、敵の攻撃を喰らったときの “よろけモーション” がフワーッと長いことと、地面に倒れてから起き上がりの間も当たり判定があること。早く体勢を立て直したくても、上記2点のため、やられるのをただ見ているしかなくなることが多い。特に、すごい痛そうな表情で腹や足をおさえてしばらく動かなくなるのは勘弁願いたい。サッカー選手か。

「ふー、ようやく起き上が……」と思ったところに次々とバシバシ殴られて、そのまま壁に叩きつけられて、タッグパートナーまで出てきてフルボッコにされて「ああ、まだコンボ続くのか……あ、死んだ」という場面に二度三度出くわすと、「……何これ?」という感想は、どうしても出てくる。だってコレ、逆にこっちが強かったら、相手に「……何これ?」と思わせるってことだろう。最後に勝敗という形で結果を出すとしても、やはり過程である攻防のひとつひとつこそが楽しくあるべきなんじゃないかと思うので、この極端なバランスには否定派だ。

 さらに言ってしまうと、これは『鉄拳』に限ったことではないのだが、格ゲーが強い人の動きというのは「特定のシチュエーションになったら必ず同じコンボを機械的に入れられるかどうか」にかかっている。この技からはこの技に繋がる、という決まりがあるから、熟練するほど仕方なくそうなってしまうのだが、それはつまり、強くなりたいなら機械のように精密に、神経衰弱でもするかのように「このシチュにはこのコンボ」を覚えなさい、ということだ。状況に応じて、臨機応変に技を出し合うのが格闘のおもしろさではないかと思っているので、そんな暗記力テストみたいなことはしたくないなぁというのがホンネだ。


■実績病患者の視点

 オフライン実績は全般的に解除しやすいのだが、オフラインで数百勝しないといけない「鉄拳王降臨!」に、ちょっと手間取った。最初は連射コントローラのAボタンをガムテープで固定して放置していたのだが、どうも負けるとランクが下がるらしく、寝てる間に締め付けが弱まっていたガムテープのおかげで敗北数がエラいことに。結局手動で 600 勝ほどするハメになった。

nina
最終的に、650 勝 340 敗くらいで鉄拳王に。ジャックのロケットパンチにはお世話になりました


 オンライン実績は「ランクマッチで1勝」と「プレイヤーマッチで1勝」が鬼門。たった1勝、されど1勝。特にランクマッチは3ラウンドとらないとダメなので、鉄拳シリーズをやり込んできた人じゃないと相当キツい。ちょっとかじった程度では試合にすらならない。

 オンライン実績は全部で 70 G(内、すべての実績を解除することで得られる実績が 10 G)。実績目当てで中古で買った人などは、オンラインパスが使用済みのケースも多いと思うので、わざわざ 800 MSP 払ってパスを購入してまでがんばるよりは、精神衛生上、オンライン実績は全部あきらめたほうがいい。私は「もう諦めよう……」と思った頃に、奇跡的に強くない人に遭遇できたおかげで、なんとか実績 1,000 に達した。

nina
対戦成績を見てみたら、1勝するまでに 50 戦。勝率2%だった。これはひどい


 他にも「エンディングムービーを 40 人以上集める」という実績もあり、「ストーリーモードを 40 人分クリアとか冗談じゃねぇぞ」と思っていたら、ゴーストバトルで金枠の相手を倒すと時々ムービーが手に入る仕様。「鉄拳王降臨!」の解除を目指してゴーストバトルを連戦する過程で、ほぼ確実に揃う。

 ムービーを片っ端から見ていくと、「ああ、そういやパンダってシャオユウの飼いパンダだっけ……」とか、「この人、確か死んだはずじゃ……」という爺さんキャラが「モテたい」という一心で生き返ってたり、ニーナとアンナは命がけの姉妹喧嘩をまだ続けてたり、総勢 50 名近いキャラたちの相関図を見てるだけで結構楽しい。

oden
love
alisa
devil
上から、おでんの具を取り合う三島家の食卓、絵画のようなオサレタッチで描かれるトレンディドラマみたいな展開のクリスティ、怖いプリクラを撮るシャオユウたち、ひとりで宇宙に飛び出して何やら苦しんでるデビルの図


「絶対コレ当初は頭数増やすためだけに適当に作っただろ」っていうキャラがゴロゴロしてるだけに、なんだかんだで各キャラの背景がしっかり構築されて説得力が出てくると、「このキャラたちの、その後も見ていきてぇなァ……」という気になってくる。他の格闘ゲームにはないほど各キャラがイキイキしているので、これは『鉄拳』最大の財産だろう。


■『鉄拳』の今後と、格闘ゲームが抱える問題

 本作は、おそらくシリーズファンにとっては良いデキなのだとは思うが、それ以外の人種を完全にシャットアウトしていると言っても過言ではないほどの、大胆なゲームともいえる。良く言えばライト層に媚びず、シリーズファンに向けた硬派な作り。悪く言えばシリーズを重ねるごとに『鉄拳』人口を減らし、自分で自分の首を絞めている気がした。

 このレビュー自体、『鉄拳』ファンを敵にまわして「私はド下手です」と宣言しているようなものではあるが、ゲームレビューを書き続けていると、やはり「できる限り、多くの人に興味を持ってもらいたい」、
「そのゲームで遊ぶ人が増えてほしい」という気持ちがある。そう考えた場合、このゲームには『鉄拳』人口を増やす努力の跡が見られず、ある意味「わかる人だけわかればいい」というスタイルを貫き通しているのが気になった。

 格ゲーとシューティングは凋落を囁かれて久しいが、その共通点は、ここだと思う。皆が見向きもしなくなったのではなく、新しい人が来ても突き放す作りになっているのだ。

 ・ ・ ・

 今回はお祭り騒ぎ、且つ、決定版という意味合いが強かったと思う。ただ、『6』のような、ひとりで遊べるようなモードがなかったため、とにかく対戦をするしかなく、オンライン対戦で渡り合えない人にとっては『6』よりも楽しみづらいものになっていた感はある。

 問題は、次の『7』で、どうなるのか。できることなら多くの人が、振り上げた拳の持って行き場がなくなるようなものではなく、ゲームの中の鉄拳で発散できるような快作であってくれることを願う。

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