« ねんがんの | メイン | あと5日 »

2009年3月13日

『バイオハザード5』レビュー

パッケージ

 まず、前作『4』をプレイしているかどうか、また、その『4』が好きだったかどうかで『5』の評価は大きく変わる。これはストーリー的なものを言っているのではなく、システム面の大きな変更。『4』以降は、それまでの『バイオハザード』とは別のゲームと言っていいほどにメインのゲームシステムが変わったので、それまでの「見下ろし型視点」「上キーで前進、左右で旋回」「敵は銃で撃つよりも避けまくって弾薬を節約するのが基本」といった『バイオ』が好きだった人の中には、あまりの変化に戸惑うか拒絶しちゃう人もいるかも。ただ、個人的にはスゴくプレイしやすかった。

 もちろん、この新システムは従来の TPS(※1)を模倣したものだが、大抵の TPS は「自身が動きながら撃てる」のに対し、『バイオ』は撃つ時は立ち止まる必要がある。この点は多くの人が指摘したようだが、開発陣としてはあくまでそこは『バイオ』らしさとして残したものであるようで、あえて立ち止まって敵を見据えて撃つ、という部分の「恐怖」も大事にしたいそうな。なんとなく分からなくもないが、多分、動きながら撃てちゃうと完全に TPS になっちゃうことや、優れた TPS なら他にゴマンとあるため、TPS と化した『バイオ』は、その後は他の TPS と同ジャンルの目線で評価されてしまう危険性があることが、動きながら撃てるようにしなかった理由じゃないかなーと思う。

(※1)Third Person Shooting の略で、三人称視点のアクションシューティングを指す。主観視点だと 3D 酔いしやすい人が多かったが、主人公の後方からの三人称視点にすることで、だいぶ酔いにくくなる。というか酔わない。多分。主観視点のものは First Person Shooting、FPS と呼ばれる。

 前置きが長くなったけど、項目別にレビューを。


■武器の持ち替えが容易に

『4』では、他の武器へ持ち替えようとするとアタッシュケース画面を開き、装備し直す必要があった。このため、敵の先頭をハンドガンなどの単発武器で倒した後、その後ろに控えている群れにはショットガンで対応、最後に生き残った敵をまたハンドガンで各個撃破……ということをしようとするとアタッシュケース画面を頻繁に開く必要があり、ゲームのテンポが損なわれるのはもちろん、面倒さが先に頭に残ってしまうため、「もうメンドイから全部ショットガンでいこう」とか、攻め方も適当になりがち。

 その点、今回は十字キーの四方に武器を設定することによって、最大4つまで瞬時に持ち替え可能に。『4』の時に「せめて2種類でいいからボタンひとつで持ち替えられたらなー」と思っていたので、もはや文句なしの仕様変更。手榴弾で適当に一掃した後、2~3体ずつショットガン→残ったのをハンドガンで倒した後にハーブで体力回復、といったことを手軽にできるようになった。


■二人一組での行動

 おまけのマーシナリーモード以外は、常に相棒であるシェバと共に行動する(一度クリアすると、シェバを操作キャラにすることも)。門を開くための仕掛けや敵への攻撃も、すべて2人。常に孤独で、それがまた「恐怖」のひとつにもなっていた『バイオ』シリーズだが、意外とこの相棒システムはいいなと感じた。

「自分が無傷でも、相棒が死ぬとゲームオーバー」というデメリットは抱えるが、相棒は銃の命中率がハンパなく高く、自分の眼前に迫った敵を後方からゴルゴ並の正確射撃で援護してくれるので、安心して背中を任せられる……というかむしろプレイヤーのほうが頼りなくてスンマセンて感じ。十字キーに割り当てていないアイテムの使用や武器の持ち替えもリアルタイムになったため、アイテム選択時やリロード時に発生する隙も、相棒に攻撃を任せてる間にカバーできる。

 基本的に NPC としての動きはかなりレベルが高く、居てくれて助かったことのほうが多い。今作はゲームシステムからストーリーから「パートナーありき」で作られているので、居なくては成り立たないとも言える。

 ネット上のレビューで「相棒が勝手に弾をどんどん消費してムカツク」という意見をよく見たのだが、個人的には、この現象は無かった。むしろ射撃が的確で、無駄弾がほとんどない印象。

 オススメとしては、相棒にライフルを持たせておくこと。このゲーム、基本的に敵が出現してから襲い掛かってくるまでが早いので、構え→照準→射撃までに時間がかかるライフルは使いづらいのだが、相棒はかなり素早く、しかも正確に当ててくれるため、自分で使うより効率的に使ってくれる。

 ライフルは一撃の威力が高くて攻撃間隔が長いので「弾をどんどん消費する」といったこともなく、後方から援護させるには相棒にうってつけの武器。ライフルの弾を見つけたら譲り、マシンガンの弾は自分で拾う……ということを忠実に守ってたら、どっかで拾ってきたマシンガンの弾を自分に渡してくれることも。最初の頃はそんなことなかった気がするけど、AI 学習してるのだろうか……?

 あと、相棒への指示に「アサルト(積極的な攻撃)」と「カバー(援護)」の2種類があるが、「相棒がどんどん進んでいって勝手に死ぬ」という人は、多分「アサルト」になってるのでは。普段は「カバー」、敵の背後を狙う必要がある際は「アサルト」がいい。相棒の動きがダメすぎて困ってるという人は、この方法をお試しを。


■チャプターごとにいつでもやり直しが可能

 これが今回一番大事なところかもしれない。全部でチャプターが6あり、各シーンごとに6-1とか6-2とかに少しずつ分けられているのだが、例えば「6-1のボスで詰まった! 弾もない!」といったとき、適当に3-1あたりに戻って弾をゲットして補充してきたり、お金を稼いできて武器を鍛えることもできる。

 さらに、チャプターの中はいくつかの「チェックポイント」が存在し、ゲームオーバーになった場合はチェックポイントからの再開になるが、このとき、再開する前に武器を鍛えたり、店で救急スプレーを買ったりも。親切すぎて頭がおかしくなりそう!

 つまり、今回の『5』は「詰まる」ということが絶対ありえない。『コード:ベロニカ』のラスボス手前で弾薬尽きてナイフで戦うしかなくなってクリアを諦めた俺のような人には、ものすごい救済。

 元々、敵を倒せばかなりの確率で弾を落とすので、そこまで弾薬が足りないというほどにはならないと思うが、適当に進んでみて「弾が足りない」と感じたら、カンタンに弾が確保できるステージに戻って何度もプレイして集めまくってくればいいし、同じ要領でお金を稼いでくれば、いつでも救急スプレーが大量に確保できるので、しょっちゅうダメージをくらう人も安心。

 さらにスゴいのは、難易度をまたいだ武器引き継ぎが可能な点。難易度はアマチュア・ノーマル・ベテラン・プロフェッショナルとあり、一度クリアすると、フル改造した武器を弾薬無限にして遊ぶことができるのだが、アマチュアモードで作った弾薬無限武器を持ったまま、ノーマルやベテランモードに挑むことが可能。どうしたんだカプコン。

 今まで「最低難易度ではクリアしてきたけど、ちょっとでも難易度が高くなると自分では絶対クリアできないから挑戦すらしなかった」という人も、手間さかえければ高難易度クリアも夢じゃない。ていうか俺も今まで、挑戦する前から「絶対ムリ」と思って諦めてた派なのだが、無限マグナムと無限ロケットランチャーを携えてプロフェッショナルモードに挑戦中。

 最高難度のプロフェッショナルモードは弾薬無限武器をもってしても相当ムズいので、ムズい『バイオ』をお好みの人はゼヒ、弾薬無限じゃない武器を使ってプロフェッショナルに挑んでみてほしい。弾薬無限武器を使うとオンラインのランキングには反映されないらしいので、ヌルいのを好まない、実力主義な人たちのテリトリーは守りつつ、そこまで上手じゃない人たちにも諦めさせないように高難易度まで引っ張っていくという、ゲームとして理想の作りになっていると感じた。『4』までの『バイオ』が特に初心者お断り的な雰囲気の玄人ゲーになりつつあったので、こういう細かい気配りができた作りは非常に好感が持てる。


■インクリボンの廃止

『バイオ』シリーズの影の代名詞でもあり、セーブする時の目印でもあったタイプライターとインクリボンは廃止され、オートセーブ方式に。静かな BGM が流れている小部屋の中、タイプライターで「カタカタカタ、ガチャコンッ」ってセーブするのが好きだったので残念ではあるけれど、実際にプレイしてみると、オートセーブというのはゲームのテンポを損なわないために重要だったのかなとも感じたり。元々、あんなにいろんなところにタイプライターが置いてあるのも変といえば変だしな……。

 インクリボンによるセーブ回数制限も初心者にとっては難しい壁でしかなかったし、セーブし忘れたままガンガン進んでいって死んだりすると、コンティニューした際に「しまった、こんなところから再開かよ……やる気なくした」てことにもなるので、そういったプレイヤーのモチベーションを少しでも低下させる要素は完全に排除した感じ。

 でも、初代『バイオ』の洋館には絶対タイプライターが似合う!


■グラフィックの向上

 これはもうハードがハードだから当然という感じではあるけれど、今回驚いたのは、いわゆるムービーシーンに相当する部分。てっきりムービーだと思っていたシーンが、コスチュームチェンジしてみたところ、ちゃんと服装が変わっていたので、すべてリアルタイムポリゴンだったということに。PS1くらいの頃はゲーム中のポリゴンとムービーシーンの差がひどすぎたけど、それがようやく完全に追いついた印象を受けた。

 あと、相棒のシェバは黒人女性だけど褐色程度の肌色なので、なんというか健康的エロスと申しましょうか、隠しコスチュームのアマゾネススタイルにしたら拙者の股間の銃身もホットにならざるを得ないと申しましょうか、嗚呼、グラフィックの向上って素晴らしい。ドット絵・2D は大好きだし、決して廃れることのない確たるゲーム文化のひとつだと思うけどそれはそれ! これはこれ!


■まとめ?

 広告のキャッチフレーズにも「恐怖の原点は、恐怖の頂点へ」とか書いてあるが、今回「恐怖」という点については皆無に等しい。屋外のステージが多いことや、2人1組で行動するため「ひとりの怖さ」が無いこと、敵を倒せば弾薬を落とすため、場合によっては逃げるより撃ちまくって倒したほうが良いことが挙げられる。

 特に、敵によってはガトリングなども持ち出してくるため、今までのように「避け」に徹しようとしてもさすがにガトリングの弾道をすべて避けきるようなスーパープレイは不可能に近いし、シーンによっては「○分間、そこで耐えろ」みたいなこともあるので、必然的に敵を倒しながら待つしかないことも。

 これはこれで、押し寄せる敵に対する別種の恐怖が芽生えるんだけど、それはなんつーかハリウッド映画的な「畜生、かかって来いよベイビー!」という、開き直ってのヤケクソ的修羅場であることのほうが多いので、やはり「恐怖」とはちょっと違うかな。海外のホラー映画を観るように、震えながら初代『バイオハザード』をプレイした人もいたかと思うが、もはや、ああいうゲームではない。

「残り少ない弾薬を大事に温存しながら敵から逃げ回るゲーム」から「全部殲滅してもオッケー」に変わったため、ゲームとしての根本的な部分が 180 度変わった。この変化は「敵を倒すと、今自分が使用している武器の弾薬を落とすようになった」ことが一番大きな要因だが、個人的にはこれは大正解の変化だと思っている。

 というのも、初代『バイオ』はパニックホラー映画的なものをゲームで作り出した点が大きく、あの状況ではワラワラと迫り来る大量のゾンビたちをいちいち全部相手にしてるほうがおかしいわけで、残りの弾薬数に怯えながら、できるだけ「避け」に徹して目的地へ急ぐ、というスタイルがゲームとして、非常に合っていた。

 しかし『2』が発売され、『1』でも一部で流行っていたナイフオンリープレイやタイムアタックが盛んになり、一層「避け」が強調されるゲームになった。ここまではまだ良かったかもしれないが、『3』『コード:ベロニカ』と、この路線のまま難しくしていってしまった感があり、弾薬の不足は「ハマリ」状態に繋がるため、敵は「撃つ」ものではなく「避ける」ものだという認識が完全に正しいものになってしまった。

 当時、俺はそれらのことを理解していた上で『コード:ベロニカ』を遊んだが、ラスボス手前で弾薬が尽き、ナイフで戦うしかなくなってしまい、何度挑戦してもラスボスに負け続けたため、クリアを諦めた。そして同時に「もう『バイオ』は俺が楽しめるゲームじゃなくなったんだな」と思うようになった。道順や敵の出現場所を完全に把握し、弾薬を極限まで節約すれば多分クリアはできただろう。でも、RPG の2周目ならまだしも、こういうゲームの初回プレイでそんなことしたくない。何より、面倒だ。

 こういう思いは俺だけでなく、結構な数の人たちも同じことを思っていたようだ。上級者たちによるタイムアタックやナイフオンリーなどの縛りプレイがさらに加熱する中、中級者以下の人たちは静かに『バイオ』というゲームから離れた。できるできないというより、楽しくない。普通にクリアすることすら困難なゲームは、やり込む以前の問題だ。「撃つ」より「避けろ」……この流れは、奇しくもシューティングゲームが辿ってしまった道をなぞっているようだった。

 しかし作り手側もこの問題は把握していたのか、『4』から路線が変わった。ゲームオーバーになった際、コンティニューすると若干敵の数が減ってラクになっていたり、手持ちの弾薬数状況に応じて、敵がいいタイミングで弾を落とすようになったり、とにかく「ハマリ状態になってクリア不可能」という状態だけは無くし、何度もやってれば必ずクリアできるように。

 ただ、すでに『バイオ』から離れちゃった人はこの変化を知らないままでいると思うし、『4』から遊び始めた人は『1』~『3』は操作が全然違うから受け付けなかったりするので、『4』以降のシステムで初代から全部リメイクしてくれないかなー。できれば、昔の操作法の『バイオ』も一緒に収録すればカンペキ!

 というわけで、やっぱりシリーズものということで、今まで『バイオ』シリーズそのものを全くやったことない人にとっては取っ付きづらいかもしれないけど、ストーリーはそこまで重要じゃないので、今まで敬遠してた人や、長らく『バイオ』から離れてた人もゼヒ。あんまり有名すぎるゲームはわざわざオススメしないんだけど、『5』はホントに丁寧に作られてるなーと感じたので。TPS というジャンルの入門ゲーとしても最適なんじゃないかなと思う。


 さいごに……
 実は『5』は海外ではあまり評価が高くないのだけど、これは「『4』から進化していない」というのが最大の理由。『4』は海外でも TPS というものの在り方に多大な影響を与えた偉大な作品として評価されているだけに、それをなぞった安易な続編と思われたのかもしれない。

『4』は確かに良かったが、細かい不満点もあった。それらを解消し、初心者が投げ出してしまわないような繊細な配慮が随所でなされた本作は、『4』で踏み込んだ “新世紀バイオ” の完成型を見た感じ。なので、個人的に『5』は高く評価したい。

adbar
adbar
adbar
adbar