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2013年10月20日

『シークレット・オブ・マナ・ジェネシス / 聖剣伝説2 アレンジアルバム』レビュー

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 “なぜ、アレンジはオリジナルを超えられないのか?”
 このサントラは、それに対するひとつの解答に見えた。

 昨今、昔のゲームミュージックの復刻やアレンジが活発……と言ってしまってもよいくらいになってきている。その背景には、過去作品のリメイク発売によって必然的に音楽もリメイクされることが多いから……ということもあるのだが、不思議なことに、多くのファンが待ち望んだはずのそれらは、ゲーム的にも音楽的にも「80点はおろか、60点を超えているか?」というデキに留まることが多い。ファンはデキを見て「なぜ、こうなる?」、メーカーは売上を見て「なぜ、こうなる?」。お互いに首を傾げる、リメイクゲーム市場。

 しかし、このサントラは、そういったリメイク商売のモヤモヤを拭い去って「ああ、これだ」と思わせるものがあった。感想は「スゴい!」ではない。「これでいい」。この一文だけを見ると、なんだかどうでもよさそうな雰囲気だが、これは最上級の賛辞と思ってもらっていい。古いアルバムに眠る、ボロボロになった写真を丁寧に補修した感じ。イマイチなリメイクゲームというのは、昔の写真を元に、構図や服装などを真似てデジカメで撮り直したようなもの。そんなものに何の意味があるだろう。それはもう、“今の写真” だ。

 ここ十数年で、ゲームはシステム面においては確実に進化している。それはキャラクターの移動速度だったり、メニュー画面の操作しやすさだったりと、ひとつひとつは小さくて地味なものなのだが、総合的な積み重ねになると、大きい。本当に、ただそれ “だけ” を直せば今でも充分に通用するゲームは腐るほどある。

 しかし、リメイクゲームの多くは、そういった小さくて細かな部分のみの修正には留まらず、「今風の絵柄ではないから」「今聴くと古臭い音源だから」という理由で大改装を試みる。それは、自分で新たな課題を増やしているようなものだ。

 リメイクを求める人間の大半は、豪華なものや時代に合わせた変化など求めていない。デジカメで撮り直す必要などない。でも、部屋を引っくり返してアルバムを探してホコリを払って……ということもしたくない。できるだけ快適に昔のアルバムを見たい、ただこれだけなのだ。

 作曲者の菊田裕樹氏がライナーノーツにて、こう語っている。

「果たして遠い昔、僕が届けた宝石は、いま君の胸にあるだろうか」

 これだけ見るとポエミーすぎて恥ずかしくなってくるフレーズだが、不覚にも胸キュンしてしまった。宝石と表現された名曲の数々は、たしかに記憶の中にずっと眠っていたが、時間は記憶にホコリを積もらせる。『聖剣2』はドラムの音が特徴的で、当時、他のスーファミ作品でもあまり聴かない音色だったのだが、オリジナル版を改めて聴いてみると予想以上に音がこもっており、「あれ? もっとスパーンと抜けるような音じゃなかったっけ?」と、思い出補正の強さを感じた。思い出は得てして美化されるものだが、このサントラは美化された思い出の音を再現したとでも言うべき絶妙な仕上がりになっており、余計な細工を施さずに、宝石に薄く積もったホコリを吹き飛ばすことだけに専念している。

 このサントラは、20年前に『聖剣伝説2』をリアルタイムで遊んでいない人間が聴いても、大して意味をなさない。もちろん、素晴らしい曲群は今の世代にも充分通用するし、当時『聖剣伝説2』を遊んでいない人たちも、これをきっかけに Wii のバーチャルコンソールで触れてみるのもいいだろう。

 しかし、違うのだ。このサントラは、昔の名曲を今に伝えるために作られたのではない。20年前に少年だった者たちに送られた、“音” の同窓会。ただ、それゆえに、普段からオリジナル版を聴き込んでいる熱烈なファンにとっても、あまり良い結果にはならないだろう。そういった人たちは “音の記憶” が新しいため、懐かしさに訴えかけるものが全くなく、おそらくオリジナル版と比較した場合の違和感だけを敏感に感じすぎてしまう。「20年前に『聖剣伝説2』は遊んだけど、それ以降、一切やってない」という人くらいが、ちょうどいい。いくら同窓会でも、普段からよく顔を合わせる人間と会っても新鮮味はない。悲しくも前向きに別れたポポイが、姿形は変わらないけれど、どこか成長したような……不思議な再会を果たせた感じ。

 欠点を挙げるとすれば、オリジナルサントラが全44曲あったのに対して、厳選された16曲のみということだが、カットされた曲をチェックしてみたら、個人的には別にわざわざ聴き直したいというほどでもない曲だったので、なんとなく納得。人気の曲はだいたい入っているが、人によっては物足りなさを感じるかもしれない。

 このサントラは、「リメイク・復刻って、こういうことだろ?」という、今までに最も説得力のある答えであり、20年前に『聖剣伝説2』に触れた人たちにしか分からないパスワードでロックされた、特殊なタイムカプセル。幸運にも俺は、それを開くことのできるひとりだったというだけなのだ。……というのは、ちょっとカッコつけすぎだろうか。

 ……と、ここまで書いた後でAmazonカスタマーレビューを見てみたら評価が低かったので、「あ、あれ?」と自分の感覚に自信がなくなりそうになったが、読んでみて「ああ、なるほど」と納得した。おそらく、このCDを「アレンジアルバム」と称したのがマズかったんじゃなかろうか。たしかにオリジナルに手を加えてるからアレンジではあるんだけど、普通、アレンジアルバムって言ったら、原曲を元に、まったく印象の違う新鮮さを与えるものというイメージがあるので、そういうものを期待して聴くと、あまりの変わってなさに肩透かしを食らう。

 でも、難しいことに、現時点では “アレンジアルバム” 以外の呼び方がない。言うなれば、「思い出の再構築アルバム ~記憶の音の間違い探し~」みたいなものなのだが、そんなこと言われても余計に何のことか分かりにくいという。

 このアルバム、個人的には面白い試みだと思ったのだが、カスタマーレビュー読む限りでは、「やっぱり、万人が納得するリメイク・復刻って難しいね」で終わってしまいそうだ。というか、オリジナルと聴き比べもしたのに「えっ、そうだっけ?」と思わされる指摘も多く、濃いファン多いなー、と感心するやら、自分の耳に自信がなくなるやら。

 せっかく再会できたポポイとも、苦笑いで別れることになりそうだ。

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| コメント (2)

コメント

夢崎さんがニジマガで書いてるコラムって書籍になる予定ってないですか?
「ハイスコアガール」や「ノーコン・キッド」の影響でレトロゲームブームが起きている今なら
需要がありそうな気がしますし、出たら是非買いたいんですが…。
同じニジマガで連載されてるちゆ12歳の本も出す出すって言ってて結局出てないので、やはり難しいでしょうか…。
紙媒体で無理なら責め手電子書籍で販売されたら嬉しいです。


投稿者 NOS : 2013年10月28日 22:55

実は現在、水面下で進行中だったりします。おそらく電子書籍になるかと。
そう遠くない内を目指してがんばっておりますので、お待ち頂ければと思います。


投稿者 夢崎 : 2013年10月30日 16:59

※現在、スパム対策のため、コメント入力機能を一時停止しています。御用の方は掲示板まで……