2008年10月23日

インシテミル

 記憶の糸を手繰り寄せながら、更新しなかった間に読んだ本や遊んだゲームについて書ければなァと長い間使わなかった筋肉をリハビリするように更新です。

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米澤穂信『インシテミル』(文藝春秋)。
雑誌で時給11万2千円という破格の求人広告を見つけた主人公は「どうせ誤植だろう」とイタズラ半分で応募したが、それは誤植ではなかった。地下に作られ、完全に閉鎖された「暗鬼館」で7日間を経過すること──それが仕事内容。内部には至る所に監視カメラが仕掛けられており、中での生活は全て観察される。集められた12人はそれぞれに個室も用意されるが、部屋に鍵はついていない。そして各部屋には「おもちゃ箱」が置いてあり、一つだけ「武器」となるモノが入っていた。

明かされるルール。殺せば殺すほど上がる報酬。しかし他の人に「犯人」だとバレると報酬大幅減の上、終了の7日後まで、ある部屋に拘束されてしまう。この「仕事」の企画者は殺し合いをさせようとしている──12人の間に戦慄が走る中、「このまま誰も殺さず、7日経過するだけでも法外な報酬が手に入る。それでいいじゃないか」そう提案する者。その通りだと納得する者。しかし翌日、最初の被害者が出てしまう──。

 推理小説では、ある場所に閉じ込められ、ずっとその中で話が進む「クローズドサークル」と呼ばれるタイプの小説で、それに「バトルロワイアル」的な要素を付け加えた感じのもの。ぶっちゃけて言ってしまえば、過去に他作品で話題になった要素を全てブチ込んだとも言えますが、悔しいけど先が気になってサクサク読めちゃうっビクンビクンッて感じです。

ひとり、またひとりと殺されていく参加者。少しずつ明らかになる、各自に割り当てられた「おもちゃ箱」の武器。そして訪れる7日目。お約束の大ドンデン返し。

唯一、苦言を呈すならば「続編でも仄めかしているのだろうか」と感じるラスト。詳しく言えないのがもどかしいんですけど、アノ人はなんでゴニョゴニョとかアノ人はなんでモゴモゴとか、そこだけがちょっと残念でした。ていうかこのレビュー、ほとんど何も書いてないのと一緒だな!

オススメする上で難点を言えば、これはハードカバーの本で、まだ文庫版などが発売されていないため、ちょっと高いというところでしょうか。本屋で見かけた時や、今後、文庫版が出た時、友人の部屋で見つけた時など、このエントリーを読んでくれた人の記憶の片隅にでも残ってくれればと思います。


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2001年3月18日

クイズ8人くらいに聞きました

 クイズでもないし、「聞いた」というより「見た」んですけど。
 一昨日の日記でオススメしなかった「翼ある闇」、「他の人はどういった作品として捉えているのか?」と少々気になり、検索かけてみました。

 結果から言うと、やっぱちょっとアレな部類に入るようで、賛否両論だとか。「賛」の方が、ちょっとわかりませんけど。ネット上に溢れる感想には「怒りを感じる」「理解不能」「この作者には常識が無いようだ」「もう笑うしかない」などなど、まあ、おおむね「ですよね」と納得してしまうものが多く。良かった。

 でも中には「最も好きな作家」「なんだかんだ言って面白いものは面白い」「『翼ある闇』は個人的ベスト1」というポジティブ気味の感想もあり、やっぱ世の中にはいろんな人がいるなあと人種の壁を痛感。

 で、どうもこの著者、基本的に全部、登場人物の名前が風変わりらしいんですが、なんと他作品の中で「わぴ子」がいるとか。マジですか。マジですか麻耶さん。も、もしかして新田舎ノ中学出身ですか。ちょうちょ結びの高気圧が君のハートに接近中ですか。年がら年中ハレバレですか。楽しまなくちゃ嘘ですか。いつでも花丸元気印ですか。きんぎょ飛びますか。そのきんぎょピンク色ですか。そのきんぎょ喋りますか。

 他にも探偵が「愛ある限り戦いましょう」だの「空に太陽がある限り」だの、美少女特撮モノのセリフを
臆面もなく吐くのはある意味、斬新。ある意味、悪ふざけ。

 でも麻耶さん、アンタ、やっちゃいけないことやったよ。「わぴ子」はNGだ。ラブコメで言ったら
『「キャー遅刻しちゃうー」
「何度も起こしたんだけどねぇ……あ、アンタ朝食は?」
「じゃ、じゃあトーストちょうだい。くわえながら行くから」
「あ、そうそう。ずっと空き家だったお隣さん、今日引越ししてきたみたいよ。会ったらちゃんと挨拶しなさいよ」
「ハーイ。じゃ行ってきまーす」

 ドタドタ、ガチャ、バタン

「わー大きいトラックー。あ、家具運び出してるとこなのね」
「あ、危ない!」
「え?」

 ガシャーン!

「イタタタタ。何コレ、タンス? なんなのよもーう! ちゃんと運びなさいよー! 危ないじゃないのよー!」
「ピーピーうるせぇな。『危ない』って言ったろ? ……アンタ、もしかしてお隣さん? 俺、今度引っ越してきたんだ。ヨロシクな」
「何がヨロシクよー! 謝りもしないでー! ……って、あー! 遅刻しちゃう! 覚えときなさいよー!」

 ドタドタドタ……

「やかましい奴だな……」

 もう! なんなのよアイツ! 朝から気分悪いわ! あんなのがお隣さんだなんて……もう最悪!
 ……でも、見かけだけはカッコ良かったかも。何歳くらいなのかしら……。

 キーンコーンカーンコーン

「えー、それでは転校生を紹介する」
「あー! 朝の引越し男!」
「お前は……! そうか、同じクラスだったとはな……」
「なんだ知り合いか? じゃあ席は隣同士でいいな」
「なんでよー!」
「やれやれ、ヨロシクな」
「4649じゃないわよー! なんで都合良く私の隣の席空いてるのよー! チョベリバー!」

 でもルックスは良いもんだから、早速クラスの女の子に大人気のアイツ。席が隣同士でいいナーとか、えっ、家も隣同士? しかも今朝会ったばかり? 何か運命めいたものを感じるわネとかみんな勝手なことばかり言ってー! あんなのがいいんだったらのしつけてくれてやるわよー!

「いつも怒った顔ばかりしてるんだな、お前は」
「なっ……アンタ、いつの間に私の背後に……」
「さっきからだ」
「ムカツクー! なんか知んないけどムカツクー!」
「ああ、今朝、タンスぶつけたろ? 大丈夫だったか?」
「え? う、うん。平気。なんともない」
「そうか、良かった」
「な、何よ。心配なんかしちゃって。らしくない」
「らしくないとは心外だな。俺は基本的に嫌な奴なのか?」
「そうよー! ちょっとカッコ良いからって天狗になるんじゃないわよー! 男は中身よー!」
「男は中身、ね。同感だな。じゃあ俺の事、詳しくなってみない?」
「えっ……?」

 トクン……(少女マンガ特有の胸の鼓動の擬音)

「……なんてな。ククッ、怒った顔より照れた顔の方が可愛いぜ」
「なっ……バッ……殺すわよ!」
「おー怖い怖い」

 もう! なんなのよアイツ! ……でも……なに? この気持ち? 私、まさかアイツに……?

 次回予告!

 かなりムカツク奴だけどウチの親と彼の親は仲良く話してるしー! なんか近所付き合い始まっちゃってるからシカト決めこむこともできないしー! 油断したらベランダ越しに私の部屋入ってくるしー! 勝手に部屋覗いて「ククク……なんだ、毎晩くまさんのぬいぐるみ抱いて寝てんのか? ククク。いや邪魔したな」って何よいいじゃないどこで何したって私の勝手でしょー! ファン! カー! ゴー! ンもう学園生活だけでは飽き足らず私のハピネスなプライベート空間までも領空侵犯するとはいい度胸よー! 今度はこっちからベランダ越しに侵入してやるのよー! 覚悟しなさいよムフー! というわけで夜にコッソリ忍び込んだベランダから覗く彼の部屋。あれっ……彼、写真立て見ながら泣いてる……?

「母さん……」

 えっ、何、子供の頃にお母さん死んじゃったとか? ロンリー父子家庭? 明るく振舞ってたのは悲しさと淋しさを紛らわすため? 夜な夜なアンタは枕を濡らすの? ていうか説明的?

 次回、パトリオットラブ第2話。「恋のO-157! お医者様でも草津の湯でも!?」

「私は絶対アンタなんか好きにならないわよー!」
「誰も好きになってくれなんて頼んでないだろ……」

 ジャカジャン!』

 ……っていうくらい、NGだ。


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2001年3月 9日

金が無いから本を読めッ

 先日買った「聖闘士星矢」の文庫版読んでたんですが、心臓止まった聖闘士って、背中から心臓が止まった時と同程度のショック与えたら蘇生するんですね。ふーん。……ってオイ! やっぱおかしいよ! 危ねぇ! もうちょっとで納得するところだった!

 また推理小説の話で恐縮ですが、ネタも無いことだし性懲りも無くレビュー。

 麻耶雄嵩『翼ある闇 (メルカトル鮎 最後の事件)』(講談社文庫)。

※トリック等のネタバレはありませんが、ストーリー上の若干のネタバレがあると思われるので、今から読もうと思っている方は適当に読み飛ばして下さい。

 さて、話の内容以前に、この小説は文中に神話や伝説の人物の名前を使った会話が多すぎる。以下、例。

「きみがクロートーで、僕がアトロポスというわけだね」

彼は運命の女神たちの名を挙げた。

「ラケシスの見当はついてるのかい」
「残念ながらラケシスはいないよ。僕は運命など信じないが、この屋敷に潜んでいるとすれば、それは死の神(タナトス)だよ」

彼はまさにヘラクレスだった。横には冥府の番犬ケルベロスを従えている。

「すると、やはり私はヘイスティングスか……」

 こんな調子。他にも、かなりの確率でこういった伝説・神話上の人物の名前が出てきて、その人物に絡めた話をすでに読者がわかっているものとして進めるものだから、少々タチが悪い。若干とばしすぎで、独り善がりな気がしなくもない。

 この小説にもいわゆる「名探偵」、木更津というキャラが登場するのだが、このキャラがどうにも馴染めず、何かとキザったらしい。名探偵とはそういうものだという意見もあるかもしれないが、どうにも好感が持てないのだ。

 なお、この小説は第一部と第二部に分かれているのだが、その木更津、第一部の最後で山に篭る。理由:自分の推理が外れたから。一瞬ギャグかとも思ったが、どうやらそうじゃないらしい。第二部でひょっこり帰ってくるのだが、その時に「鞍馬山に修行に行ってたんだ。滝にも打たれたよ」と言っている。でもこの発言により、この木更津がちょっと好きになった。話の途中で事件放っぽり出して鞍馬山に滝に打たれに行く探偵なんて、数ある推理小説の中でも彼くらいでは。

 で、第二部の冒頭からはサブタイトルにもなっているもう一人の名探偵「メルカトル鮎」の登場となるわけだが、これがまた木更津以上に嫌な奴。サブタイトルにもなっているキャラがこんなんでいいのかと思ってたら初登場後、96ページで死亡。いいのか、こんなんで。

 結末は……例によって説明できないが、やはりそれ以前に、全体的に随分と独り善がりの匂いがする。必要以上に登場する「独特すぎる神話関係の文章」と、キャラたちの「こんな言葉、日常生活じゃ使わねぇよ」といった会話が、鼻についてしょうがない。「感じ方は人それぞれだろ」と言われるかもしれないが、とにかく気になり、「いくらなんでもこれはちょっとカッコつけすぎだろ」という部分が多すぎる。

 本編が終わった後に、作者以外の人による、その本の推薦文みたいなのが載っていることがある。例にもれずこの本にもあるのだが、この文章がまたわざと難しい言葉を選んで使ってるとしか思えない、筆者がカッコつけてるとしか思えない難解極まりない文章。これだけの文章が書けるのなら、もっと砕けた文も書けるはず。ちなみに、その後にある「解説」を書いている人の文は非常にわかりやすく、すんなりと読める。その「解説」の中で書かれていた、

「読者は背負い投げの連続、鮮やかなドンデン返しを待っている。本格ミステリのファンは、ひたすら投げられることに無上の快感をおぼえる奇特な人種なのである」

という記述には思わず頷いてしまった。

 ……というわけでオススメはしませんが、ある種の怖いもの見たさ的な感じで手を出したい方は是非。


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2001年3月 2日

吹雪の山荘は好きですか

表紙

 倉知 淳「星降り山荘の殺人」(講談社文庫)。
 まず「山荘」という文字が目を引きつけた。数ある推理小説のパターンの中でも「山荘」モノ、特に「吹雪の山荘」モノと言えばもう古典中の古典で、あまりにもアレなので最近は見ない舞台設定である。本を手に取り、裏返して見る。講談社文庫は本の裏にカンタンなあらすじが書いてあるのだ。

雪に閉ざされた山荘。ある夜、そこに集められたUFO研究家、スターウォッチャー、売れっ子女流作家など、一癖も二癖もある人物たち。交通が遮断され、電気も電話も通じていない陸の孤島で次々と起きる連続殺人事件……。果たして犯人は誰なのか!? あくまでもフェアに、読者に真っ向勝負を挑む本格長編推理。」

 正直、驚いた。モロ「吹雪の山荘」モノである(なお、上の太字表記の部分は個人的にビビッときたところ)。

 使い古された舞台設定だが、俺は「吹雪の山荘」が大好きだ。使い古されているだけに作者の技量が問われる。あまりにもモロだったので、ほとんど条件反射でレジに持っていった。

 前置きが長くなったが、個人的にこの本は久々のヒットだった。
 例によって推理小説なので、どんな話で、こういうところが……と大っぴらに語れないのがツラいところだが、完全に後ろからナイフを刺された感じで、いざ結末を読んだ時は思わず顔がニヤけた。そうだ、なんでこんなことに気付かなかったんだ――。

 ひとつ、書けるとすれば、この本を読むタイミング。
 推理小説の熟練者(変な表現だが)ではダメだ。多分そこまで衝撃を受けない。
 全くの初心者でもダメだ。この衝撃の意味が100%伝わらない。
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 真相を読める人もいるとは思う。読んでいない推理小説は無いというほどのマニアは世にはゴロゴロいるものだ。だが、こういう本に出会った時、つくづく自分が真相を読めなくて良かった、と思ってしまう。推理小説では騙されることが快感だ。いや、そうでない人もいるだろうし、騙され方によっては不愉快な読後感を残すものもあるが、基本的には騙されたい。気分は「お願い、最後まで上手く騙して……」である。

 全ての推理小説に共通の犯人がいるとすれば、それは作者である。そして、自分がその犯人に見事に殺された時が、俺の至福のひとときなのだ。


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