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2016年11月17日

PS Vita『かまいたちの夜 輪廻彩声』発表

『かまいたちの夜 輪廻彩声』名作サウンドノベルを挑戦的にアレンジした意欲作(ファミ通.com)

 ついにチュンソフトは自社でやるのではなく、5pb. に作らせて安全にロイヤリティをゲットする方向に行ったのだろうか。でも正直、『真』もアレだったし、『2』『×3』と「大好評」とは言いがたい結果が続いたシリーズだけに、ここらで一発、文章を読ませるゲーム・ジャンルに愛があり、『シュタインズ・ゲート』を生み出し、『YU-NO』の版権までゲットして復刻しようとしている 5pb. に任せてみようということなのかもしれん。

『輪廻彩声』の「彩」はおそらく実写撮り込みの背景やキャラ絵のことで、「声」は声優が付くということだろう。まあ今の時代、このテのゲームでボイスがないというのは逆に珍しいので、そこは仕方ないとしても、シルエット→萌え絵はスゲェ嫌な予感。「シナリオの重さと絵柄が伴わないリメイク」の悪例としてPSP の『EVE The 1st. burst error』があるが、あそこまでひどいことにはならないにしても、「絵が付くことによるメリット」がひとつも想像できない。今回は背景グラフィックが完全に実写撮り込みの美麗画面となったが、「実写の背景の上に、萌え絵で描かれたキャラクターを乗せる」って、違和感スゴいぞ。この違和感はドリームキャストの『北へ。』以来。

●シルエットはメリットしかない

 公式ファンブック内のインタビューによると、『かまいたちの夜』のシルエットは

「談話室でたくさんの人が話をしているときに空っぽの椅子が写っていたんでは、間が抜けているでしょ。
それで、『影でも描いたらどうですか』と言ったんです。」

 という、我孫子武丸氏の提案で導入されたものだった。『弟切草』は基本的に主人公とヒロインのみで話が進むのでシルエットなしでもなんとかなったが、『かまいたちの夜』は複数の人物が会話することもある殺人事件の話。もしシルエットも何もなかったら相当分かりづらかっただろうし、さらにこれがキャラ絵や実写だと、内容無関係に毛嫌いする人が出ていたと思われるので、『かまいたちの夜』はここまでのヒットにはならなかっただろうとすら思える。シルエットは『かまいたちの夜』の、影の立役者だ。影だけに。

 小説のように、人物像を完全に頭の中で想像するのもそれはそれでいいものだが、やはりシルエットのような “想像の取っ掛かり” があると、取っ付きの良さ・分かりやすさは段違い。シルエットというのは、プレイヤーが各々の想像力で作り上げた人物像・イメージを壊さずに、身長や髪型といった外枠の情報だけを正確に伝える、ほぼ完璧な落としどころだったともいえる。

 そこを絵にしてしまうと、その “絵柄” は重大責任になる。イメージが固定されることに加え、絵柄は人によって好き嫌いが生じるものだからだ。さらに、発表されているものはどちらかというと萌え絵寄りの、可愛らしい絵。もしこれが、殺人事件なんか起こらない、冬の山荘でドキドキ☆なラブコメノベルだったら何の問題もないが、正直言って、この絵柄でサバイバルゲーム時の可奈子がストック持って半狂乱で襲い掛かってくるシーンとか、ちゃんと恐怖を演出できるのだろうか? と思ってしまう。人が人を本気で殺しに来る迫力を表現できるのか? と。

 他にも、真犯人と対峙したときに徐々に迫ってくるあの姿とか、ああいった恐怖シーンは、シルエットで表情が分からないからこそ、プレイヤーが表情を想像することで怖さが倍増していた。これらを全部、“絵” で描いてしまうことになるわけで、その仕上がりには不安しかない。恐怖というのは人の心が生み出す幻影のようなもので、人の想像力こそが最大の恐怖演出装置でもある。ホラーではよく、白い服に長髪の女性が出てくるが、長髪で顔が隠れて見えないからこそ怖いのだ。『かまいたちの夜』のシルエットは、最小限の労力で最大限の効果をもたらすものだったということを分かったうえで絵にしたのなら、大した自信だといえる。

 ファミ通.com にてキャラ絵の一部も公開されているが、みどりさんが単なる美少女になっていた。ゲーム中で「時々高校生みたいに見えるし、おばさんに見えることもある」という絶妙な表現をされていたみどりさん。俊夫もそうだが、原作では「顔も髪もすっかり雪焼けして、サーファーのようだ」と評される場面があり、ビーチバレーの女性選手などを見ても分かるように、日焼けしまくった女性は若い人でもおばさんのように見える瞬間がある。そういう女性の健康的な魅力を伝えようとしていたのだと思うが、今回のこれは、どう見てもおばさんには見えない。文章ごと変更される可能性もあるが、文章まで変えるならもう新作作れよという気もしてくるし、とりあえずこの絵、俊夫だけ日焼けしてて、みどりは色白ってマズいんじゃないか? ふたりは恋仲で、時間があればゲレンデ行ってスキーしてるという設定だったはずなんだが……。

 こういう萌え絵のイラストレーターにありがちなこととして、「男性の絵がヘタ」「年齢の描き分けができていない」といったことが多い。すでに発表されている絵の時点でその不安はあるのだが、香山とか春子は大丈夫なんだろうな? 萌え絵に、ほうれい線だけ付け加えたような絵は勘弁してくれよ?

 あと、Amazon で見つけてしまったが、やっぱりあのシーンも絵で全部描いちゃうのね……。ここも、血に濡れた髪の毛が広がる様だけをモノクロで描くことで凄惨さと恐怖が増していたと思うのだが……。

●新規シナリオ追加、ライターは竜騎士07氏

 単なるリメイクに留まらず、新規シナリオが追加されるのは嬉しいところ……だが、ライターが竜騎士07 氏というのは、ちょっと嫌な予感。竜騎士07氏の文章力に不安があるわけではなくて、『かまいたちの夜』の追加シナリオの執筆、と考えたとき、「他人の作品に自分を合わせる」ということにまったく向いていない人な気がするからだ。良くも悪くも個性派というか。

『真』では各シナリオの担当作家がそれぞれ好き勝手に書いていて、全体としてのまとまりに欠けていて唖然としたものだが、今回も、竜騎士07 氏が担当したシナリオだけが異様に浮くような気がしてならない。正直、竜騎士07 氏を起用するなら、『~の夜』というタイトルで新作サウンドノベルを作ったほうがいい気さえする。でも『うみねこ』で相当炎上した人なので、それはそれでバクチだけど……。

 ライトノベル作家×チュンソフト、といえば、以前に『428 ~封鎖された渋谷で~』でも TYPE-MOON が担当したおまけシナリオがあったが、「『428』というゲームに必要なシナリオかこれ?」と思えるほど勝手に突っ走ってる感があって、どうにも好きになれなかった。挙句、おまけシナリオがアニメ化とかワケが分からない。最初からよそでやれ、という。さすがに今回の『かまいたち』は、そんなことにはならないと思いたいが……。

 個人的には『2』の進化版シルエットでリメイク+我孫子氏による追加シナリオ大量投入……とかだったら即予約コースだったのだが、多分これは従来のシリーズファンや「久々にもう一度やってみたい」という層向けではなく、そもそも『かまいたちの夜』を遊んだことがない若年層に向けて、ライトノベル感覚で触れてもらおうという企画だと思うので、その仕上がりとユーザー評価は、良い意味でも悪い意味でも気になる。

 俺は『かまいたちの夜』をキッカケに推理小説をいろいろと読むようになったので、若い人たちもこれをキッカケに推理ものや、文章を読むこと自体に興味を持ってくれるといいなァとは思うが、あの頃と違って『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』に始まる推理ブームが起こった後なので、スゴい地味に感じられる可能性が高い。もしこれをプレイした若い層が「『かまいたちの夜』やったけど、あれ大したことなかったね。事件も地味だし、絵が可愛いから全然怖くないw」とか言い出したら、俺は血涙を流しながらワイングラスを一気に空けて「畜生……違うんだ……畜生……」とか呟くことになる。

 ……そういや、ちょっと気になったのは、新たな背景写真。今回はモデルとなった実際のペンション “クヌルプ” 内の写真をそのまま使っていくぽいのだが、すでに発表されてる写真のひとつ……これはクヌルプのカウンター付近の写真だが、本来なら裏口や小林さんの部屋に続く廊下に、いろんな品物が並べられているため、「この廊下、通れるの?」感がスゴい。『かまいたちの夜』は Android 版や iOS 版も出ているので、画像はそこからの流用なのかもしれないが、このへんどうなってたのか気になる。

 最後に……今週のファミ通の記事に載っていた我孫子氏のコメント。

サウンドノベルを作ると決まって、人物グラフィックをどうするか話し合っていたときのこと。
実写か、イラストか? 当然すぎる2択だったが、どちらも皆しっくり来ていない様子。
「……影でよくないですか?」。僕のやや無責任なそのひと言で、『かまいたちの夜』の大きな方向性が決まった。
いまや、『かまいたち』といえば "影" だし、似たような映像を見ると「『かまいたち』っぽい」と言われたりさえする。
それがいま、時を経てあえて現代的な萌え絵でリメイクしてくれるという。
きっと、同じテキストでありながら、まったく違う何かに変わるのではないか。
いまの読者、ゲーマーに、またオールドゲーマーにも、もう一度楽しんでもらえるとうれしいです

 ……俺は知ってるぞ。この「実は全然納得していないけど、仕方ないから社交辞令的に無理矢理ポジティブっぽく見せるコメント」……ドラマ版『かまいたちの夜』についてコメントしていたときの我孫子氏だ。前半で『かまいたちの夜』とシルエットの関係がどれだけ大事かということを語って、「そんな大事な部分をゴッソリ削り取っての新作、逆に期待してます!」という皮肉に見えないこともない。我孫子氏は追加シナリオ書いてくれないぽいし、完全にノータッチなんだなぁ……。

 発売日は意外と早く、2月 16 日だそうな。『かまいたちの夜』スキーとしてはフクザツな1本となりそうだが、ある意味、“怖い” もの見たさで買うことになりそうだ。


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