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2016年10月30日

施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』(REXコミックス)3巻発売

 漫画の単行本の発売日を心待ちにしていたのって何十年ぶりだろうか……。……いや、でも昔の漫画の単行本って、本屋にブラリと行ったら「あ、出てる」って感じだったし、そもそも発売日が明確に分かっていなかった気もする。本屋の壁に貼ってある刊行予定表みたいな紙のスケジュール見て「下旬……なんとなく下旬に出るらしい! 覚えておこう!」程度だった気もする。さらに言うと九州は本の発売がだいたい3日遅れるので、予定表に書かれている日付+3くらいしていた気がする。そう考えると、漫画の単行本の発売日を心待ちにしていたことって実は1回もないんじゃないだろうか……漫画雑誌と混同しているのではないだろうか……この文は書き出しにしては長すぎないだろうか……などとどうでもいいことをダラダラと書いては消しをしていたら、せっかく発売日に Kindle 版を購入するという最先端のスタイルを決めたのに、+3日が過ぎていましたとさ。

 というわけで待ちに待った『バーナード嬢曰く。』3巻だが、相変わらずのクオリティの高さで、ホントいつまでも読んでいられる。読み終わった直後にまた最初から読めるレベル。以前に「ページ数に対して本ネタの消費量が凄まじい」と書いたのだが、作者もそれを気にしてかせずか、この3巻では本のレビュー抑えめな回がポツポツあり、そういう回ではあくまで本を中心に回る、さわ子や神林たちの青春模様を描いている。


普段から抱いていた、積みゲーに対する後ろめたさをたった4文字で一刀両断された。そうか、俺はふしだらだったんだ……。

 でも、本の貸し借りでジュースこぼして染みを作ってしまった話で、「ちゃんとすぐ謝ったド嬢は素直で良い、神林は器が小さい」かのように描かれているが、飲み物はまだいいとしても、クッキーのカスが挟まってるって相当じゃなかろうか。食べるとき、本の上にボロボロと粉が落ちてるのも気にしていないってことだし、ページにその粉が落ちても取り除こうともしてないってことだからね……。だまされるな、神林!


3巻で最もホッコリしたコマ。「ジュース」って書いてあるジュース。最近のマンガは小物も精密に描き込んであるものが多いけど、この適当感。それでいて「このサイズで、ちょうどこんなリンゴが描かれたジュース、どっかで見たぞ……」という既視感。

 しかし「いかに読まずして読書家ぶるか」に熱心だったはずのド嬢が、『羆嵐』は普通に徹夜して読破しており、その理由も「読書家ぶりたいから」ではなく「本に夢中だったから」である。図書室の友人を介してド嬢にも変化が表れたのか、友人たちの存在によって本当の読書家になっていくのか。本の染み事件のような失敗を経て、本の扱い方を改めたり友情が深まったりしていく、ド嬢や神林の成長物語へと昇華させようとしているのかもしれない……。

 あと、ゲームファンとしては『火の鳥』の回は嬉しい小ネタだった。ファミコンの『火の鳥 鳳凰編 ~我王の冒険~』が原作と無関係すぎるというアレ。

 まだ『火の鳥』を読んだこともない小学生の頃に、友人宅で『我王の冒険』をやらせてもらったことがあったのだが、まず主人公の名前が「我王」というところに「えっ、何かの王様とかじゃなくて名前が我王なの!? カッコイイ!」であり、天狗みたいな鼻したオッサンが主人公というところにも衝撃であり、主人公が宙に作り出している足場が鬼瓦と聞いて「主人公の武器が瓦!?」であり、「自分にはまだ早すぎるマンガなのではないか……?」と、内容が想像できなかった。

 その後、大人になってからちゃんと読んだのだが、結構壮絶でエグい話なので「子供の頃に読まなくて良かったかも……」と思いつつ、「このマンガから、どうやって鬼瓦を足場にするという発想が……!?」と戦慄したのも覚えている。ただ、音楽はどこか『ドラキュラ』ぽくてスゴく良いので、やったことない人は中古屋でカセット見つけてレトロフリークに突っ込むのオススメ。

 それはそうと今回の3巻の中で、あとがきで作者が書いていたコレが一番、身につまされた。

SNS の普及で、本に限らずあらゆる事物について不特定多数に向けて語ることが可能になった。
実際自分も、映画の感想等をツイッターでつぶやいたりしている。しかし書き込む前に、誰もが
「間違ったことを言ってないか? 誰かを傷つけたり怒らせたりしないだろうか?」と、
内容についてあらゆる方面から精査しなくてはならない状況になっている。
そこまで神経質にならないまでも、無意識の内に穏当な表現に自主規制してしまっている。
伝えたいという熱を一旦冷ましてからでなければ、表に出せないのだ。

 まさにそうなんだ、と感じた。自分もゲームレビューを書くときに同じようなことをしているし、これと同じ悩みをずっと抱えている。

 それでは「熱のほうを大事にして、最初に書いたものをそのまま出すのが正解か?」というと、そんなことはない。できるだけ熱が冷めないように細心の注意を払いつつの調整が正解だろう。熱湯入れた直後のカップメンをいきなり啜ったらヤケドするし、数十秒遅れるだけで冷めてしまう。熟練の手腕による絶妙の冷まし加減が求められるし、どうすればもっと美味くなるかの工夫・研究も必要。そもそも料理じゃなくてカップメンに例える時点で俺の心と食生活の貧しさが垣間見える。

 昨年にこのマンガに出会ったときは、ひょんなことから掘り出し物を見つけた幸福感でホワホワしていた程度だったのだが、今やアニメ化されるわ(ニコニコ動画で観れる)、本屋行ったらハヤカワの SF コーナーは大幅に拡大されてるわ、さらにそのハヤカワの本に『バーナード嬢曰く。』のオビがついてるわで、エラいことになってるなぁという感じ。

 あと、裏表紙に、ネタ元の本のタイトルが少し書かれているのだが、本編でわざわざ名前を伏せたタイトルがモロに書かれていて笑った。知りたくない人は裏表紙は読まないほうがいい。マンガ内で神林に「オビでネタバレするとは信じられん」とか言わせていたのに、まさかのセルフパロディなのか。それとも「超古典だからいいだろう」という「犯人はヤス」的なアレなのか……。

 もう、できることなら 100 巻くらいまで続けてほしいくらいに好きな作品だが、1冊出るのに1年と2か月が経過しているので、1年に1度のお楽しみということになりそうだ。

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