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2011年2月 7日

DS『逆転検事2』レビュー

パッケージ

 まさか続編が作られることになるとは思わなかったが、聞きかじった話だと前作は発売初日の時点で 12 万本は売れていたらしいので、このゲーム不況の中、10 万越えするコンテンツがあるのなら、続編の制作にGO サインを出すのは当然の事なのかもしれない。

 ……と、そんな風に冷めた目で見ていたのだが、本作はそんな思いを良い意味で裏切ってくれた。


■無駄のない全5話

 前作とは異なり、各話で起こる事件はちゃんと単体で一応の解決を見せ、1話ごとにとりあえずの達成感を出している。それでいて各話のエピソードは単体だけでなく、最終話に向けた大いなる伏線となっているのは見事。最終話に、1話からの他の事件が収束する形はこれまでの『逆転』シリーズでもよく使われている手法だが、今作は最終話までの事件と登場人物、本当に「すべて」が収束する。

 無駄なエピソードがない。
 無駄な登場人物がいない。
 主要登場人物の全員に見せ場がある。

 これだけのストーリーを作るのは大変だったと思うが、その苦労は確実に実っている。

 唯一、苦言を呈すならば……第1話の中盤まで最終話の最後の追い込みに若干の物足りなさを感じた。最後の追い込みに関しては、前作がしつこすぎた反省もあるのかもしれないが、第1話の中盤までは正直「これはひどい」という感想だった。
 第1話は大統領の狙撃事件なのだが、捜査始まってすぐに事件現場のゴミ箱から発見したウエストポーチの中から早速拳銃が出てきて「オイオイ」と思っていたら、ミツルギが「プロの暗殺者の犯行なのだろうか?」とか言い出した時は「『2』もダメかもしれん……」と本気で青ざめた。プロが事件現場のゴミ箱に証拠を捨てるか。そこから先はは別人が作ったような完成度になっていったのでホッとしたが……。

 細部を突っつけば、アラはある。『逆転』シリーズ特有のムチャな設定を理解していても納得しがたい点や、ゲーム特有のご都合主義的なところ。そのへんには、あえて目を瞑ろう。それらのことから生まれる不満感よりも、全体での満足感が上回ったから。


■打ち破った、“中だるみの第3話”というジンクス

 個人的に『逆転』シリーズで毎回感じているジンクスが、第3話の "中だるみ" だ。トノサマンやサーカス団といったものが出てきて、見た目は派手で楽しげだが、いわば話の本筋とは無関係な寄り道をしているように感じられてしまっていた。『名探偵コナン』で黒の組織が出てきたと思ったら、次の話ではまた日常の事件に戻って「あー、また普通の事件かよ……」みたいな感じに似ている。
 ドラマ的な殺人事件ではなく、登場人物たちの日常に起きた非日常という意味での殺人事件を描くことで世界観の補助的役割を果たすのが、今までの第3話だったと言える。

 今作も、第3話はイヤな予感満載で始まる。歌って踊れるパティシエ絡みの事件。子供たちに人気の番組。わざわざ主題歌ぽいものまで作ってある。俺はそんなもの求めてない感がフツフツと沸いてきたが、今回の第3話はミツルギの父である御剣 信が 18 年前に担当した “最後の事件” が絡んでくる。現代と 18 年前に、酷似した2つの事件が起こり、回想を挟んで交互に話が進んでいく。この仕掛けのおかげで話の先が気になり、第3話のジンクスは打ち破られた。


■キャラクター

『逆転検事』だけでなく、過去の『逆転裁判』シリーズで馴染みのある懐かしいキャラが今回も色々と登場するが、前作と違い、ちゃんと「分かる人は分かればいい」作りになっている。ただ、オバチャンが登場しなかったのは逆に驚いた。


■主人公・ミツルギの成長

 前作でのミツルギは、あくまで外伝作品としての “一応の” 主人公役を担っている感じだった。しかし今作では大きな決断を迫られる場面で、検事という職を越えた、キャラクターとしての魅力を発揮する。今作で完全にミツルギは「主人公」になった。


■システム面

 ハッキリ言うと、前作から何も変わっていない。キャラクターの移動の必要性や「調べる」が画面右下にあってタッチペン的に不便など、前作のレビューで指摘したような点は、そのまま。法廷ではなく事件現場で話を聞いている時に「異議あり!」と言う違和感も健在。この辺りはもう変えようがないという諦めムードも感じる。

 “ロジックチェス” という新要素があるが、やっていることは「ゆさぶる」「つきつける」と大して変わらない。「正解を見つけるのが難しい、時間制限アリ選択問題」みたいなもので、解いている感も達成感もない。ロジックチェスについては「新しい要素ですよー」というポーズにしか見えないのが残念だった。


■まとめ

 前作での反省点をひとつひとつ直していった、努力家の続編。システム的にもキャラクター的にも斬新なものは何ひとつないが、ストーリー作りと構成にすべてを賭けている。

 ミツルギやメイの、狩魔 豪の呪縛からの脱却。
 ミツルギとイトノコの繋がり。
 ミツルギの父の無念。

 これらは、『逆転裁判』シリーズもプレイしているかしてないかでは相当印象が違うと思うので、やはり前作だけでなく『逆転裁判』シリーズのほうもプレイしているファン向けだろう。

 テーマは「親子の絆」。「父の影響を受け、良くも悪くも、その影響が及ぼすものと戦う子供」を描いている。イトノコ以外の主要登場人物ほぼ全員に、親子の絆や師弟関係を示すシーンが盛り込められている。イトノコの場合は、ミツルギとの上下関係だろうか。もちろん狙って作ったのだろうが、ここまで盛り込むのは大変だったはずだ。

『逆転裁判4』では当時話題になっていた裁判員制度が結末に関わっていたが、今回は “冤罪” によって苦しんだ人と、真相が明らかになったとしても戻ってこない時間……果たして “法” とは必ずしも正しいのか? といった部分への問いかけにもなっている。この辺りはタイムリーではないが、社会風刺を交えたもうひとつのテーマといったところだろう。

 昔のマンガ・ドラマ・映画・ゲームといったものには必ず、その作品のストーリーとは直接関係しない「隠されたテーマ」が作られていた。最近は面白さや興味を惹きつけることが優先され、そういったものは感じ取れない作品が多いが、『逆転検事2』は、多くの殺人事件を解決していくミツルギ検事と、その仲間たちの成長物語に乗せて、様々な形の親子の絆というテーマを見事に描ききった。同時に、“法” が抱える問題と、その番人でもある「検事」という職業の苦悩とやり甲斐も伝える、前作からは見違えるほどの成長を遂げた名作だ。

 エンディングスタッフロールを見る限りでは巧氏は関わっていないようなので、今作の完成度を以って、ようやく『逆転検事』シリーズは産みの親である巧氏から親離れできた印象を受けた。テーマである「親子の絆」は、巧舟という偉大な親を越えるべく頑張った『2』スタッフをも表しているものでもあったような気がする。

 でも「『3』なんて作ったら蛇足になるだろこれ……」という完成度なので、これで『逆転』シリーズは幕引きかなーとも思うが、これで終わるなんて「アマいな!」と……ロウ捜査官なら、そう言うのかもしれない。

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